ONE VOICE

笑っていれば、イイコトあるよ

* ONE LOVE + ONE LIFE + ONE VOICE *

Don't love me for who I am.
Love me for who I can be,

and I'll be that person for you.
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A beautiful heart

Music: Tashikanakoto - Chris Hart

雨上がりの空を見ていた
通り過ぎていく人の中で

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日本に戻ってきてしまえば、
インドを思い出すことなど何もない。

裸足で歩く乾く前の床の生ぬるさとざらつき
道に散乱したごみとそれに群がるハエのせわしい羽音
怒鳴り声とクラクションの重なる人口密度の高い道端の喧噪
公衆便所と重い雨の混ざり合った風の臭い
パラパラしたお米とさらさらのカレー
少しずつ伸びていくおばあちゃんたちの髪の毛のさわり心地

飛行機に乗って行かなければ、
コルカタにはたどり着けない。

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あの街の空は、
二階建てになっている。

雨を降らせる低い暗い雲と、
夏を謳う背の高い白い雲が、
少し色の薄い空を日本よりも早く駆け抜けていく。

音を立てて強く激しく叩きつける雫を、
狭い屋台の軒下に、みんなで横一列になって見ている。
容赦しない雨が水たまりになって山羊の血や鶏の肉片を浮かべても、
晴れれば、背筋を伸ばしてそこを歩いていく。

屋台のお兄ちゃんが、束になった木の枝の端を、
ナイフを使って角を取っては並べていく。
少し細いけれど、何かの薪にするのだろうかと思っていた。
帰るころになって、あれは歯ブラシだったのだと気付いた。

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子供たちは、ガイジンを見ると、それだけで喜んでくれる。
興味津々に遠くから見ている子もいれば、
近寄ってきて満面の笑顔で手を差し出してくる子もいる。

みんな等しくかわいい。

ひらかれた手のひらと、私を見上げる幼い瞳をまじまじと見る。
見つめあう。
どれだけ待っても、可哀想に、と思う瞬間が訪れることはなかった。

がんばれ。
何もあげないし、抱きしめたりしないけど、
でも応援してる。

いまこのエントリを書いている、冷房の効いた日本の図書館で
数学や生物や地理と格闘する受験生たちを見ながら、
私は彼らの応援もしている。
同じように。

きっと誰の生活の何の足しにもならないけど。

生きていきたい未来を探す。
生きていきたい未来を作る。

その作業のしんどさは、
生まれた場所や肌の色や頭の出来に左右されない。
左右されてたまるか。

私たちだって、前に進んだり、進まなかったりしながら、
この胸が打つ同じ一拍を生きている。生きていく。
同じ美しい一拍だと、胸を張って言えるように。

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死を待つ人の家には、
40人くらいのおばあちゃんと
40人くらいのおじいちゃんがいて、
人数が毎日増えたり減ったりする。

増えるときは、施設にベッドの空きがあるときで、
近くの駅で動けなくなっている人がタクシーで連れてこられる。
蛆がわいているような傷があったり、
ノートパソコンみたいに軽かったり、
どこの言葉をしゃべっているのか分からないくらい痴呆が進んでいたりする。
シャワーして、頭を丸刈りにして、みんなと同じワンピースを一枚来て、
彼らは施設の仲間になる。

痩せて細ると、骨と皮は分離する。
腕をさすると、すこしぱりぱりした皮が、骨の上を滑っていく。
タトゥーが、皮と一緒にシワシワってなったりする。
墨は、「所有者」を彫っていることが多い。

Shu Probhat(おはよー)と言うと、
首をちょっと傾げて、インド風に頷いてくれる人もいる。
Bhalo Acho?(元気?)と言うと、
顔を曇らせたり、そっと笑顔を見せてくれる人もいる。

私が「んふふふ!」というと「ひひひひ!」と必ず笑ってくれるおばあちゃんがいた。
彼女の笑い方が本当に楽しそうだから、
私は毎朝そのおばあちゃんと笑い声で挨拶をした。
彼女はそのほかには言葉を発しない。

彼女たちと私たちは、お互いが誰だかを知らない。

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朝の洗濯物が終わって、少し手が空いたので、
苦しそうに寝ているばあちゃんの手を握っていた。

ぎゅって握ると、たまに握り返してくれる。
昨日来たこのばあちゃんは、ずっとうわごとを言っている。
誰とお話したかったんだろう。
凹んだほっぺたを触る。いろんな画の入った腕をさする。
あなたの人生どうだったの。と聞くと、
ばあちゃんは、うわごとを言いながら、確かにちょっと頷いた。
あれ、ばあちゃん日本語分かるの?とか言いながら、すこし笑って会話を続ける。
施設では、みんな思い思いの言語で好き勝手にしゃべっている。
だから会話は成立していないのだけど、
私はいろんなおばあちゃんとよくお話をした。

ふと、ばあちゃんがちょっと目を開けたと思ったら、
私の手を放して、自分の胸の上で指を組んだ。
空の上の誰かとお話をしている。
そしてまた目を閉じて寝始めた。

彼女はお昼前に亡くなった。

ほかのおばあちゃんと手を繋ぎながら、最後のお祈りが行われるのを見ている。
こういう時は、ボランティアもおばあちゃんもみんな隣同士で座りながらただ見ている。
ただ見る。そしていろんなことを考える。
一つの会話も成立しなかった他人の死を悲しいと思うこととか。
体温というもののこととか。
その国に生まれて、その国で生きて、その国の寿命で死んでいくこととか。

そういう漠然とした事柄を。

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ボランティアにはいろんな人がいる。
1日だけの人もいれば、インドに移り住んで7年間尽くしている人もいる。
大体毎日男女合わせて20人くらいのボランティアが来る。
国はみんなバラバラで、アジアもいればヨーロッパもいたし、
英語をしゃべる人もいればそうでない人もいた。

毎年休みを作って手伝いに来ている人も多いようだった。
慣れた感じで、ただいまって感じで、帰ってくる。

最終日に、心の準備はできた?と他のボランティアに聞かれて、
I don't think I can ever be ready to leave, but I can never be realy to live, either.
コルカタを離れるのはさびしいけど、ここに住もうとも思えない。
と言った。
もう10年以上リピーターを続けているイギリス人のクリスは、
分かるよ、と言ってくれた。

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こんなに海外を意識させられたことは、これまでになかった。
「お邪魔します」と言いながら日常を覗いている程度で、
良いも悪いも好きも嫌いも言えた立場ではなかったけれど、
文化の違いを、ここまであからさまに見せつけられたことはなかった。

私にとってたまたまアメリカは性質もタイミングも「当たり」だったのであって、
多くの場合において、外国に行く、ということがどういう想いや困難を生み出すのか、
いま、もう一度確認できたことは、貴重だったと思った。

そして最終的に、ごみの散乱したコルカタの街を
美しいと思うようになった自分の変化も、
私にとっては大きな出来事だった。

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結局、私は会ったことのないおばあちゃんたちに会いに行ったのだ。
と気づく。

本当に彼女たちの生活の改善を願い実行するなら、
私は飛行機で飛ぶよりもその金を寄付すべきだし、
滞在費を医療器具に変えてコルカタに贈ればよかった。

だけどそんなことはちっとも考えなかった。
私にとっては、自分が物理的にその場に行って、
何かをすることが大事だった。
私は、私が何かを得たかったから、インドに行った。
そういうことだった。

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コルカタを離れるのはさびしい、という表現は正確じゃないのかも、
とクリスに説明する。
I'm not ready to leave the patients.
おばあちゃんたちとお別れするのがさびしい。
彼女たちには、ここに来なければ出会えなかった。
ここでなければ会えない。

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インドで何かを与えてくれたのは、「死を待つ人」だった。

月並みだけど、
言葉が通じなくてもいっしょにいることができるということ。
いっしょにいられるということを、いっしょによろこべるということ。
生まれや生き方が違っていても、どこかに交点がある。

茨城からコルカタまで行ったのは私だけど、
野戦病院みたいな光景を前に尻込みしてしまった私に、
最初に手を差しのべて、勇気をくれたのはおばあちゃんだった。

勇気。

おばあちゃんたちは、
ベッドに寝て、寝たきりで、
骨と皮だけで、一人ではトイレができなくて、
ご飯もボロボロこぼすけれど、
人に勇気を与える。

今はなんだか分からないけれど、
この旅に来なければできなかったことを、
私はできるようになった気がする。

ほんの少しだけだけど、きっとちょっと勇敢になった。

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一番大切なことは 特別なことではなく
ありふれた日々の中できみを
今の気持ちのままで見つめていること

質の違う美しさの日本で
違う匂いの風の吹くイギリスで
日常の優しさに馴れ合わないように
めげたり負けたりしないように

おかえり! ぱちぱち。

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